Google は昨年、AI による取り組みに対する 5 年にわたる支援を基にして、持続可能な開発目標に関する取り組みを AI で加速させる団体に向けた、2,500 万ドルの公募を開始しました。選定された団体の事例を紹介します。取り組みの参考にしてください。
17 の持続可能な開発目標
各国の首脳陣が 17 の持続可能な開発目標に合意をしました。これは「世界の To Do リスト」として知られています。
グローバル ゴールズの AI を通じて Google が支援している団体の紹介
社会に影響を与える AI プロジェクトへの資金提供を 2018 年に開始して以来、Google は、ウガンダのオートバイ タクシーに搭載する低コストの大気質センサーから、インドの農家が害虫を減らして収穫量を増やせる AI 搭載アプリまで、さまざまな取り組みを支援してきました。また、世界中の温室効果ガス排出量をトラッキングする AI による人工衛星モニタリングのような、野心的なグローバル プロジェクトにも資金提供しています。
今回 Google の支援を受ける団体は、AI のおかげで目標を達成するための時間が 3 分の 1 になり、費用は半分になると報告しています。
Google はこの勢いに後押しされ、1 つ以上の国連のグローバル ゴールズに関する取り組みを AI で促進することに特化したプロジェクトに対し、さらに 2,500 万ドルを提供することにしました。
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インド
Rocket Learning Foundation
インドでは約 3,500 万人の低所得層の子どもが就学前教育を受けられず、読み書きや計算の能力の面で高所得層の子どもに後れをとっています。Rocket Learning は、親や教師のデジタル コミュニティを結集して就学前教育を支援しています。Rocket Learning は生成 AI モデルと機械学習を利用し、ローカライズされた学術コンテンツの作成、評定の自動化、パーソナライズされた学習プログラムの提供を行える AI コーチを開発することで、インド全国の子どもの教育機会を増やし、学習成果を向上させます。
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グローバル
RAD-AID
医療を受けられないために、毎年何百万人もの方々が亡くなっています。低中所得国では医師や医療従事者が不足しています。つまり、X 線などの放射線検査を受けても、読影する資格を持った専門家がいません。RAD-AID は、呼吸器疾患と乳癌に的を絞って、リソースに乏しい病院が X 線などの検査の選別と解釈や検査結果の伝達に AI を活用することを支援します。RAD-AID は今回の資金援助により、20 か国で診断技術と 3,000 万人超の患者体験を改善します。
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グアテマラ
Wuqu’ Kawoq | Maya Health Alliance
グアテマラはラテンアメリカの中でも新生児死亡率が非常に高く、特に先住民族であるマヤ系住民の間で高くなっています。分娩時の胎児仮死や胎児の発育不良につながる問題の多くは早期に発見すれば対処できますが、発見するために必要な技術をどこでもすぐに利用できるわけではありません。Wuqu’ Kawoq と safe+natal は、地方部の助産師が合併症をリアルタイムで発見できるように、機械学習を活用したツールキットを開発しています。ツールキットとは、すなわちスマートフォンに接続された低コストの超音波診断装置と血圧計です。母親が必要としたときに必要な助けを受けられるようにすることで、防ぎ得る死亡や合併症の発生をなくします。
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オーストラリア
メルボルン大学
認知症患者に共通の課題は、感情的欲求と身体的欲求が満たされなかった場合の興奮です。音楽の治療効果をウェアラブル センサーや AI と組み合わせた MATCH(Music Attuned Technology - Care via eHealth)は、興奮の抑制と医療費の削減を目的とした、適応性のある音楽ベースのツールです。今回の資金援助は、センサー技術と AI で実現する音楽適応システムの開発と、プロジェクトの世界展開に向けたオーストラリアでのパイロット試験を支援します。
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インド
Wadhwani AI
インドでは地方部の 600 万戸以上の世帯が綿花栽培に依存していますが、ワタアカミムシガの幼虫のような害虫が毎年最大 30% を食害しています。Google.org による先行支援により、Wadhwani AI は害虫を特定して軽減戦略を推奨する AI 搭載アプリを開発しました。農家の利益は 20% 増え、農薬の使用量は 25% 減りました。今回の再投資を受けることで、Wadhwani は農業省と連携して、10 種類の主要作物に対しこの技術を全国展開できるようになり、重要性の高い穀物を保護することで数十億単位の人々を飢餓の脅威から救えるようになります。
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ウガンダ
マケレレ AI 研究所
低中所得国では顕微鏡を扱う検査技師が不足しているため、マラリア、結核、癌などの病気の患者は、質の高い診断をなかなか受けられません。その結果、適切な治療を受けられずに命を危険にさらす人もいれば、薬剤耐性につながる、必要のない治療を受ける人もいます。マケレレ AI 研究所は、あらゆるスマートフォンや顕微鏡に対応した、AI で画像を処理する 3D プリント製のアダプタを開発します。これで健康状態の迅速な診断が容易になり、診断時間が 25% 短縮される可能性があります。
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南アフリカ
IDinsight
南アフリカの妊産婦死亡率は近年低下していますが、妊産婦には妊娠に関する緊急の心配事への支援がまだ不足しています。IDinsight と Reach Digital Health は、自然言語による質問回答サービスを構築しました。このサービスは重要な健康情報の障壁を減らし、最も必要としている人を優先します。Google.org の支援を受けて、IDInsight は健康に関する緊急の問題を抱える妊産婦を減らし、言語的なアクセシビリティを向上させます。また、他の組織を支援するオープンソース プラットフォームを作成し、サービスを受けていないコミュニティ メンバーが情報に簡単にアクセスできるようにします。
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グローバル
DHI A/S
10 億人以上の人が湿地に頼った生活をします。湿地には世界の生物多様性の約 40% にあたる生物が生息しており、二酸化炭素を吸収して貯蔵することで気候変動を遅らせる大きな能力があります。それにもかかわらず、マッピングと特性の解明は不十分なままです。DHI A/S は UNEP の協力を得てオープンソースの衛星画像、その他のアクセス可能なデータソース、機械学習を利用し、世界の湿地に関する知識を深め、試験的に 5 か国で展開して、世界規模で湿地のマッピングを行います。
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ケニア
EIDU GmbH
ほとんどの子ども、特に低所得層や中間所得層が多く、リソースが限られている環境の子どもは、対面式の個人指導は受けられません。しかし、デジタル学習ツールは、インターネット接続が限られている地域でも、すべての子どもにより多くの学習機会を与えられる可能性を秘めています。EIDU GmbH は、低コストのスマートフォンと AI を使用して、ケニアで教師に指導案とコンテンツを提供し、最大 200 万人の就学前児童と数十万人の小学生にデジタル演習、評価、個別指導を提供しています。僻地ではこれらはすべてオフラインで提供されます。
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ベトナム
国際道路評価プログラム
世界中の子どもや若者の主たる死因は交通事故です。道路の設計の悪さと自動車の速度が相まって、子どもたちは毎日の通学で危険にさらされています。iRAP は AI、衛星画像、ストリートビューの画像を使用して交通安全に対するリスクを検出し、ベトナムの学校周辺の道路インフラストラクチャを全国的に評価し、他の国にも展開する予定です。このデータをさらに利用しやすくすることで、防ぎ得る被害の発生を最小限に抑えるための、新しい政策や、歩行者に優しい道路への投資について伝えることを目指しています。
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グローバル
HURIDOCS
法律や政策といった人権に関する情報はアクセスしにくい書類の山に埋もれており、人権擁護団体が効率的に活動したり政府がデータに基づいた決定を行ったりする際の妨げになっています。HURIDOCS は Google.org の支援を受けて、そのような情報へのアクセスをかつてない規模で提供する無料のオープンソース ツール、Uwazi を開発しました。今回の再投資で、HURIDOCS は引き続き Uwazi に機械学習を統合し、暴力のパターンに関する認識を高め、世界中の重要な判例を活用します。
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サブサハラ アフリカ
Causal Foundry
毎年約 30 万人の女性と 500 万人の新生児が、妊娠出産に関連する原因で死亡しています。こうした死の多くは低コストのヘルスケアと行動の変化で予防できます。Causal Foundry は、機械学習を利用してパーソナライズされた介入と推奨を行う、スマートフォン ベースのツールを構築します。コミュニティの医療従事者が患者の情報を管理できるようになり、健康転帰を改善する行動変化の支えになります。今回の資金援助により、Causal Foundry はサブサハラ アフリカに 160 万人いる既存患者のケアを改善し、2026 年までに年間 300 万人の新規患者に対応することを目指しています。
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英国、米国
サリー大学
手話を第一言語とする全世界の 700 万人の重度聴覚障がい者の 80% は、自国の話し言葉を適切に理解できません。デジタル アクセシビリティと手話通訳者の不足によって、教育、医療、雇用などに関する日々の情報や交通機関による移動などの活動の支援が困難になっています。サリー大学と Signapse は、生成 AI を使用してオンラインとオフラインのテキストを正確な手話動画にリアルタイムで自動翻訳することで、手話を第一言語とする米国と英国の 60 万人近い聴覚障がい者に対して、手頃な価格で簡単かつ安全に手話通訳を提供しようとしています。
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グローバル
国際稲研究所
気候変動は米の生産に大きなリスクをもたらします。米は世界人口の半分以上が主食としており、1 億 4,400 万戸の小規模農家の主な収入源となっています。このプロジェクトは、世界最大で最も多様な種籾のコレクションの利用を促進する方法を特定するために AI を活用して、気候変動リスクを軽減するために農家が用意する、気候変動に強い稲の品種を開発します。種籾は研究者や農家に無料で提供されます。開始から 5 年後に、アジアとアフリカで新品種を採用した場合の経済効果は 300 億ドル以上になる見込みです。
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サブサハラ アフリカ
Jacaranda Health
サブサハラ アフリカ全体で、妊産婦がケアの指針となる臨床的に正確な情報を入手できずにいます。Jacaranda Health の SMS ベースのデジタル ヘルスサービスは、臨床的に緊急のケースの質問を選別するために、行動のナッジと自然言語によるヘルプデスクを使用しています。このサービスは現在、スワヒリ語と英語のメッセージを毎日最大 5,000 件選別し、妊産婦を人間のエージェントに素早くつないでいます。今回の資金援助により、Jacaranda Health は機械学習を使用してリスク予測などのモデルを改良し、新たにアフリカの 4 つの言語で展開して、サービスを受けていない 300 万人の妊産婦を支援します。
選定基準
グローバル ゴールズに向けた取り組みを AI で加速させる提案を多数お寄せいただきました。Google は、以下の基準に基づいて応募内容を評価しました。
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影響力
AI を応用してどのようにグローバル ゴールズに向けた歩みを加速させ、障壁を乗り越え、非効率性を低減しますか。その応用は研究やデータに基づいていますか。AI モデルを導入する明確な計画がありますか。また、どのような成果が見込まれますか。
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拡張性と持続可能性
成功した場合、このプロジェクトは最初の提案からどのように拡張できますか。Google.org による資金提供の後、プロジェクトをどのように継続しますか。学習内容やベスト プラクティスをグローバル コミュニティと共有する明確な計画がありますか。
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実現可能性
十分に検討された、現実的な実施計画がありますか。問題に AI を応用するために必要な技術的な専門知識がありますか。適切なパートナーや分野の専門家を見極めていますか。
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データと責任
AI の応用には大きな可能性がありますが、こうしたテクノロジーは重要な課題を提起します。AI は、問題に取り組むために適したツールでしょうか。この提案は、革新的かつ効果的な方法でテクノロジーを応用していますか。AI の使用は、Google の AI の原則と責任ある AI への取り組みに沿っていますか。
責任ある AI のリソース
Google は、社会的影響力を持つ組織を含め、誰もがテクノロジーを活用して問題を解決できるようツールやリソースを利用できるようにしています。初めてご利用になる方も、ある程度習熟されている方でも、ぜひこのガイドをお役立てください。